揺らぐ世界の「スタンダード」…前提条件なく安全保障、防衛問題について検証を
我が国の国家戦略の基本は「日米基軸」「国連重視」である。これは、防衛問題に限らず、国家運営の大前提としている基本中の基本である。
しかし、トランプ大統領をリーダーとする米国の第2期トランプ政権(以下「トランプチーム」という)は、その始動以来、トランプ関税をはじめ、経済的な施策を強引に推し進め、イランの核施設への空爆、ベネズエラへの特殊部隊による作戦などの武力行使を含む行動も実行してきた。その後も、グリーンランドの領有の考え、直近ではイラン内政への武力による威嚇なども行っている。
また、トランプチームは、国連の機関に対する支援停止、過去に取り決めた協定などからの離脱表明など、「ドンロー主義」を実行しつつある。まさに、我が国の最も重要な同盟国「米国」と、外交活動の基盤としてきた「国連」についての基本認識を、考え直さなければならない事態となっている。
今後の防衛問題については、現在の世界情勢を分析し、前提条件、常識、既成概念にも疑問を持ちながら検討を行わなければならない。
第2次世界大戦後の世界情勢
第2次世界大戦後、イデオロギーによる東西冷戦を経て、一方の超大国「ソ連」が破綻し、米国を中心とした西側諸国による、国際的な法・規則、組織とその運営の約束事、世界的な協定等々(以下、全部をまとめて「スタンダード」という)が整備されてきた。
国家の基本的機能は、昔は「版図」の維持・拡大であり、領域を拡大することは必ずしも「悪」ではなかった。その後、原・水爆などの大量破壊兵器の出現を機に、武力による領域拡大が「悪」とみなされるようになった。そこで、各国は「支配力」の維持・拡大を目指す行動をとるようになった。
「支配力」には、最も本質的な軍事力のほか、経済力、政治・外交力、技術力などが考えられる。この「支配力」を、世界に広げるかどうかは、それぞれ、その国の国策による。歴史上、例えばモンゴル帝国、ローマ帝国、大英帝国などは、当時の世界最強国として君臨していた。
米国は第2次大戦後、これらの国々にも匹敵する国力を背景に支配力を高め、行使し、人類史上最強の国家の地位を獲得してきている。しかし、米国は支配力の行使にあたり、民主主義国家らしく、少なくとも表面的には合法的に秩序ある形を取り、長い年月をかけて種々のスタンダードの整備に力を尽くしてきたのである。
トランプチームの行動は「スタンダードの違反・破壊」か
このような秩序を作ってきた米国自身が、自らの手法を大きく転換しているのが現状である。世界的に、トランプチームの行動は批判・非難されていることが多い。しかし、決定的に対抗する国は見当たらないのが現実である。我が国においても、明確に「いさめる」ことを提唱する勢力があるが、政府は「だんまり」を決め込んでいる。
日本人的には「自ら作ったスタンダードを、自ら破るのはけしからん!」となるが、一方で「自分が作ったスタンダードを、自分で変えるのだから問題ない。文句があるなら自分で作ってみろ!」となる。
まさに、第2次大戦後のスタンダードは、米国がその国力を傾注して築き上げたものといっても過言ではない。もちろん、スタンダードによる利益の分け前の多くは米国のものとなったが、一方では「世界の警察官」として米国民の「血と汗」も流してきたのである。
このように考えれば、トランプチームが既存の「スタンダード」を無視し、作り変える権利を主張し行動に移していることも理解できる。
なぜトランプチームは「スタンダード」を変えようとするのか?
米国を主体とする西側各国は、自由主義、民主主義的な方法で「スタンダード」を構築してきた。しかし、「スタンダード」の代表的な存在である国連は、第2次大戦の戦勝5カ国が、安全保障理事会で拒否権を保持するという、構造上の問題点を持っている。
中華民国(台湾政権)は、中国本土の支配権が、中華人民共和国(以下 中国という)にあるという理由で国連を追われた。また、ソ連の崩壊に伴い、ロシアが常任理事国の地位を得ることになった。
いうまでもなく、これら2国は民主主義国家ではない。ほとんどの「スタンダード」は民主主義的な考えのもとに構築されているが、中・ロ2国には、民主主義的考えは通用しない。
アフガン侵攻、今回のウクライナ侵攻を実行したロシアは、厳しい国際的「制裁」を受けつつも、国家意思を固持している。ただし、軍事力を除く、総合的な国力という点では、現在的にはさほど問題とはならないと考えられる。国連における説得力も自らの手で放棄したと言えるであろう。
問題は中国である。中国は、共産党独裁政権が支配する国家である。独裁政権は、ある意味で効率的な国家運営が可能である。中国はその多大な人口を、市場として、また労働力として、両面での価値があることをフルに活用して国力の増大を図ってきた。それだけであれば、まっとうな国力増強策として、他国から指弾されるものではない。
しかしながら、中国は一方で、開発途上国として、金融、投資、貿易、税金等、各国からの支援などなど、多方面で様々な恩恵を受けて来た。経済規模で世界第2位になっても、これらの恩恵を受け続けている。
さらに、契約、技術移転、知的所有権などについても、独自の解釈での対応を節操なく行使している(高速鉄道網の構築に際しての我が国の新幹線技術、独・仏などの車両技術の習得経緯は分かりやすい所業である)。
近年は、増大した国力を背景に、軍事力の強化を進めており、核保有国としての核戦力の充実強化はもちろん、通常戦力の近代化、実戦化を進めている。しかもこれは全く秘密のベールの向こう側で行われているのである。
トランプチームは第1期から一貫して「MAGA(Make America Great Again)」を提唱している。今のスタンダードでは独裁国家「中国」を抑えきれない。新しいスタンダードを築く必要がある。そのためには、まず国力を増大させる必要がある。なりふりをかまっている余裕はない、というのがトランプチームの基本的考えではなかろうか。
「再び偉大になって、『世界に冠たる国家』として機能したい」というのが、トランプチームの本音であり、米国の本音であろう。
これまでの「スタンダード」の構築は真に正当、民主的だったのか
トランプチームの種々の政策と行動は、各国の非難を招いている。特に軍事的行動に対しては、西側諸国からの批判も激しい。日本的に言えば「横紙破り」「おきて破り」である。
2026年1月3日に米国のトランプチームにより実行された、ベネズエラにおける軍事作戦は、次の日には世界中に報道された。
現在は情報化時代である。世界中での発生事象の情報が集約・分析され、リアルタイムで取得され、マスコミ等によって公表される。準備段階はともかく、結果については当時者、専門家以外に一般国民でも、ある期間を置けば知りうるところである。民主主義国家にとって、隠し事ができないのが、昔との違いである。
第2次大戦後に米国が築き上げてきた種々のスタンダードは、本当に我々日本人が考える民主的な方法で議論され、構築されてきたのであろうか。我々日本人は、現代の尺度で物事を考える。
「武力行使は悪」「力による現状変更は許されない」「国際基準を守るべき」、我が国の国民の反応であり、政府も外交場面で公言している。
戦後スタンダードの代表、国際連合(国連)は第2次大戦後の1945年10月24日に発足した。戦勝国を中心に設立されているので、敗戦国の我が国が設立の議論に参加したわけではない。1956年になって、参加を承認されたのである。我が国が加わって民主的手続きでつくられたのではなく、平たく言えば「力により勝ち取った国が権利を行使する手段として」設立されたものである。
また、情報手段が現代と比べ物にならない時代であり、逐次つくられた個別の「スタンダード」の構築には、公式・非公式、公正・不当の各種工作がなされたであろうことは想像できる。
日本国憲法は我が国にとって正当、民主的なスタンダードなのか
「日本国憲法」は1947年5月3日(現在の憲法記念日)に施行された国家にとっての最高法規。その時の我が国は連合国軍の占領下だった。連合国といっても実態は米国である。形式的には、日本国政府が立案成立したものとなっているが、現代日本人の最も嫌う「軍政下」での憲法制定である。
一方で、1951年のサンフランシスコ平和条約に調印し、翌1952年に国家として主権回復が認められ、1956年になって正式に国連加盟国となっている。私は、米国にとって、第2次大戦以降の外交政策で最も成功したのは、我が日本に対する占領政策とその後の外交政策であったと思っている。
もちろん朝鮮戦争の勃発など、数々の出来事があってのことであるが、経済的にも成功し、今や米国の信頼できるパートナーとして国際政治の各場面で、常に味方するまでになっている。しかも、軍事的には従属しており、反抗できる存在には絶対になりえない、米国にとって誠に都合がよい国家である。
米国は、我が国に対して、戦後の統治政策として、軍事無力化を主眼とし、教育制度改革、財閥解体、民主化、その他の有形無形の施策を実行してきた。これらは占領下で行われたものであるので、当然「武力」を背景にした強制力が働いている。これらの占領政策のうち、明確に成文化されたものとして「日本国憲法」があり、その成果が現在の我が国である。
まさに日本国憲法は、米国の占領軍によってつくられたものといえる。米国が武装解除、軍事力弱体化を主眼として制定したものであるが、敗戦で白紙状態になった国民意識に鮮やかに刷り込まれてしまった。
現在行われている衆議院総選挙において、反米を唱える勢力がこぞって日本国憲法を絶対視し、擁護を叫ぶのを見て、いささか滑稽さを感じる。
我が国は、伝統と国民の努力により、現在の世界における地位を獲得してきた。一方で、米国の戦後統治政策が大きく影響しているのも事実であると思う。
トランプチームによる米国運営と、その影響による世界スタンダードの不確実性を乗り越え、我が国の繁栄をはかるには、最も基本となる安全保障、防衛問題を前提条件なしに、検証・検討することが必要と考える。
文/島本順光 内外タイムス