【演芸諸行無常】聞き手にも出来がゆだねられる落語の奥深い魅力
2024年夏前、発行部数が日本で上位何誌かに入る週刊誌の編集者から「うちのデジタル版で演芸の連載をしませんか」と声をかけられた。即食いつき、いくつかの企画を送った。でもって、打ち合わせ当日。
「編集長ともいろいろやったんですが、演芸ネタは読者が食いつかない。チケットの取れない落語家クラスのネタでも、最初のページに100人のアクセスがあったとしたら、次のページで70人、その次に50人と落ちて、最後まで読まれない」とデータの説明を受け、企画はポシャった。
紙メディアの時代と違い、読者数がはっきりと表示されるウェブメディア。演芸の記事を書けることはこの上なくうれしいが、同時に打ち切りが背中合わせに付きまとい、怖くもある。
内外タイムス編集部の請川公一氏にもその旨を伝えたところ、「演芸ネタはアクセスを取りにくいですが、内外タイムスには必要だと考えています」という力強い援軍のお言葉をいただいた。
というわけで、『演芸諸行無常』と題して月2回、演芸業界のあれやこれやを書きつづっていきます。
今回取り上げるのは、数日前に書店に並び始めた自著「落語家になるには」(ぺりかん社)。いきなり宣伝かよ!と突っ込まれそうだが、お許しのほどを。
一見、落語家になりたい人向けのタイトルだが、中身は結構ディープ。東京の演芸業界を中心に30余年取材をしてきたデータを随所に盛り込み、読了後は落語を聞きたい!落語家を推したい!と思ってもらえるよう、取材・執筆に1年以上の時間をかけ、完成にこぎつけた。
巻頭インタビューには、人間国宝の五街道雲助師匠にご登場願った。入門の経緯から今に至るまでを俯瞰(ふかん)的にうかがうと同時に、入門希望者が落語家になるまで“寄席菌”が作用するという話は新鮮だった。
続く対談は、人気テレビ番組「笑点」の大喜利メンバーでもある春風亭一之輔師匠と桂宮治師匠。日本全国を飛び回る忙しい2人だけに、対談の日時を決定するのが何よりも大変で、ピンポイントの条件下で設定でき胸をなでおろしたことを思い出す。
他にも、若手の女流・古今亭佑輔さん、アコーディオン漫謡歌手の遠峰あこさん、太神楽曲芸師の翁家和助さん、前座修業を活写するために桂しゅう治さんにも話を聞いた。
落語は不思議なもので、動画や映画、ドラマのように目の前にはない。観客の目に映るものは、高座に座ってしゃべる落語家だけ。
では一体、落語はどこにあるのか。
立川志の輔師匠はよく「落語はお客様の頭の中のスクリーンに映し出されるものです」と定義する。
100人が聞けば100種類の映像がそれぞれの脳裏に描かれるのが落語。言葉をうまく映像化できる人の脳内スクリーンは豪華なものになり、そうでない人の脳内スクリーンは貧相なものになる。
落語というエンタメは、出演者の出来と同時に、聞き手にも出来がゆだねられる特殊なエンタメなのである。その面白さを、自著にはたっぷりと詰め込んだ。
本が売れない時代にもかかわらず、初版5000部!という強気。これが売れないと、次の出版企画がポシャってしまうため、この頃私は、ぼて振りで商品を売り歩いていた江戸時代の行商人のように、トートバックに在庫10冊を入れて持ち歩き、知り合いを見つけると、出会い頭に「買って!」と膝につくほど頭を下げまくっている。
どこかで遭遇したら、運の尽きと笑ってお付き合いください。
文/渡邉寧久 内外タイムス