サイレントパンデミック……薬が効かない耐性菌・ひそかな拡散 開発された新薬にも耐性つき、イタチごっこ

去年、過去最多8万人超の患者数を記録した百日せき。原因は抗生物質などの抗菌薬が効かない「薬剤耐性菌」と呼ばれる菌が広がっているからだ。28日放送のNHK「クローズアップ現代」で解説した。

にきび、中耳炎、肺炎、食あたり、ぼうこう炎など、薬剤耐性菌にはさまざまな種類がある。その数は、WHO(世界保健機関)が優先して対処すべきとしているものだけで15種類ある。

健康な人が薬剤耐性菌に感染する事例が増えている。番組が取材したクリニックへ受診に来た女性は指の付け根に大きなできものができていた。「ロキソニンなどを飲まないとズキズキして眠れない。虫歯の痛みと同じ」と話す。別の病院で処方された抗菌薬も効かなかったという。

この女性が感染していたのはMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という耐性菌。これまで病院内で感染症を引き起こすことが知られていたが、それが強毒化していた。

昨年、百日せきの患者数は8万9387人に急増した。そのうち、約8割が耐性菌だったことが分かった。この耐性菌は近年、中国・アジアで流行したタイプだという。人の出入りが多くなっており、グローバルに監視していく必要がある。

実際、薬剤耐性菌は今、世界的な問題となっている。英国の政府機関は、対策をとらなければ2050年に世界で1000万人が死亡、がんの死亡者数を上回ると推測する。

耐性菌の状況に詳しい国立健康危機管理研究機構の菅井基行氏が「耐性菌はもともと弱毒だが、免疫力が落ちると発症リスクが高まる。抗菌剤が投与されても体内の中で生き残った菌が耐性菌として増えていく。接触感染、飛沫感染、糞口感染などの感染経路があり、高齢者や子ども、基礎疾患のある人などはとくに注意が必要。感染予防としては、体調管理に気をつけて免疫力を高め、手洗いやうがいなど基本的なことをきちんと行うこと。百日せきにはワクチンが有効」と耐性菌について説明した。

新薬の開発も期待されているが、製薬会社の開発現場では新しい課題に直面している。せっかく開発した薬でも、薬を使いすぎると新たな耐性菌を生み出してしまうため、大量に販売することができず、十分な収益が見込めないというのだ。

世界では抗菌薬ではなく別の治療法を模索する動きもある。米大学では、主に下水から採取される“ファージ”の利用を研究している。ファージは耐性菌を破壊する性質を持つさまざまなウイルスで、人の細胞には感染しない。ただ、ファージは特定の細菌にしか有効ではないので、患者に合うものを選ばなければならないという。

耐性菌をめぐるイタチごっこのような状況に、日本政府も製薬会社を支援している。

おすすめ