【演芸諸行無常】「コンプライアンスの超越者」快楽亭ブラックの映画が勢い拡大、大ヒットの兆し

芸人の世界もすっかり様変わりし、コンプライアンスから逃れられない時代になった。

吉本芸人を育成するNSCでは、コンプライアンスに関する授業を受けないと卒業できないほどで、「とがった芸人はもはや、求められていないんです」という声も耳にした。

新宿末広亭の席亭で、寄席演芸界の「大旦那」として存在感を示した故北村銀太郎さんの書「聞書き・寄席末広亭」(冨田均著・平凡社)には、寄席芸人について次のよう記されている。

「寄席の芸人てのは、もともとてめえの家じゃ糞もできないもんたちの寄せ集まりなんだよ。家なんかもってるもんは一人もいなかったくらいなんだからね。もうみんな厄介もん。道楽三昧にうつつをぬかした挙げ句、仕様がねえからやってきたなんていうどうにもならない連中ばかりなんだ」

そんな時代は遠い昔。今では東大出、京大出の落語家もいるほどで、全体的にちゃんとした世界になりつつある。

その中で、ひときわ異彩を放つ落語家がいる。快楽亭ブラック師匠(73)。

師の動向を平成最後の日からカメラで追いかけたドキュメンタリー映画「落語家の業」(榎園喬介監督)が昨年末に公開されたが、その勢いがじわりじわりと全国に拡大中だ。大ヒットの兆しを見せている。

当初の上映館は5~10館だったが、現在では18館にまで拡大。「もっと増えそうです。想定外です。元々、こんな異端の落語家がいたんだという記録資料のつもりで作った作品で、ヒットするとは思っていませんでした」と榎園監督。

公開前の興行界の反応は予定調和に支配されていて、関係者からは「落語の映画は面白くない」「落語の映画は(客が)入らない」と言われ、榎園監督も「きつかった」と振り返る。

業界の流れが変わったのは、ユーロスペースの、落語に興味がなく、快楽亭ブラック師匠のことも知らない番組編成者が「面白い!」と太鼓判を押したこと。評判は業界中に広まり、さらにユーロスペースでは連日満員御礼が続いたこともあり、各地の映画館から上映希望の声が続々届き始めたという。

映画パンフレットに記されたブラック師匠の人となりは「コンプライアンスの超越者」。ネタには事欠かない。

落語界のカリスマ、故立川談志師匠の弟子だったが、談志師匠の貯金を勝手におろし競馬に使ったことがバレて破門。都落ちし大阪に拠点を構えた際には、桂三枝師匠(現文枝)に預かってもらい、芸人としての命をつないだ。その頃、ポルノ映画で共演した女優と結婚式を挙げるが、挙式の余興として女優の濡れ場シーンを上映したところ、相手の親戚にドン引きされた。独演会で、弟子の彼女のプライバシーをばらしたところ訴えられ、損害賠償30万円を支払う羽目に。30万円を用意するも、それをそのまま納めないのがブラック流。有馬記念の単勝に全額ぶち込み、見事的中し、身銭を切らずに損害賠償金を捻出することに成功した。

といったことが、映像と証言で記録されているのが「落語家の業」だ。面白くないはずはない。

榎園監督は「最もうれしいことは、映画館で笑いや拍手喝采が起きていることです。おそらく演芸ファンが多いからだと思っていますが、映画はサブスクで見るのが当たり前になった時代に、演芸ファンによって映画館の価値が再発見されたような気もしております」と喜びを伝える。

すべての出来事を、笑いにしてしまう芸人という生きざま。自分自身を一切飾らず、さらけ出しきった映像は力強い。

文/渡邉寧久 内外タイムス

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